ピシィッ、いつもながらに肉にまで食い込むムチの痛さだ。
うっすらと肌にしたたる血が地面に落ちていく。
痛いんだよぉ!ニャ~ゴ!
平成30年、田舎町を舞台に猫ぞりレースが始まった。
ここ九州南部地方も例外ではなく、国の政策に左右されていく。
地方分権とはいったものの税の大半は国に集中し、地方任せのほったらかし内閣だった。
当然、物資は乏しく、どうしても地方は貧しかった。
そんな中、地主議員の政策は、地方の活性化とシルバー運動機能向上政策(別名猫捨て山政策とも呼ばれている)と聞こえはいいが、公認の猫ぞりレース。
9歳(約50歳)を過ぎた老猫がそりに首をつながれ、隠れポイントごとにチュウ太郎を射止め、ゴールを目指す。本音は、賭け事で税収を増やすことと、老猫の間引き。
前方に、チュー太郎、右みぎ30m!そりに乗ったトム議員の声が10匹の老猫に向かって発せられる。
その時、先頭を走っている左を目指した老ノラ吉にムチが浴びせられた。ビシッ!イタイニャァ!
左のめざし魚(うお)に目がいった。自然に体が反射しその結果、肉に食い込むムチ。
ノラ吉はトム議員が嫌いだ。
あいつらは、何もせず、ムチをくれやがる。ソリ上のトムを睨みつけた。
生まれが違うんだ。そう、生まれが。
8年前の平成22年、老猫の100歳以上が75匹も安否不明になった。
三毛猫ジャポン国にしては、あり得ない珍事だった。
拉致か、それとも神隠しか、それとも、猫薬の珍薬用に殺されたか、様々な議論が交わされた。珍薬には、雄猫の方が良いそうだ。だから、不明の4分の3は、雄猫である。
そんな中、年金が受給されていたことが問題となり、また、食糧不足も相まって、社会実験猫ぞりレースが南九州のこの地域で実施されるようになった。
一石2鳥、老いることを忘れている若い世代の猫と血統ある猫貴族が賛成票を投じた。
老齢化は少しずつ解消し、現在に至る。それは、レースの最中、心筋梗塞、脳溢血、熱中症、むちで打たれ失血症と様々な原因で急死するからに他ならない。
平成25年度、老猫医療制度は打ち切られ、どうせならレースの方で死んだ方がまし、そんな風潮になってしまったこともレースが続いている原因だ。
もう誰もが、不思議に思わなくなった。
4歳のトム(人間で約32歳)よ、あんたも後5年もすれば……。走りながら、ノラ吉は思った。
アンときゃ、若かった。……”ノラ吉は、ルイスが好きだった”
気づいた時は猫レース。
死にものぐるいで走っても、いつか、地面にひれ伏して、
土を食わされる……。
走る力もなくなって、腕の力で進んでも、
ムチが飛んできて、またも土を食わされる。
ノラ吉父さんの気持ちも貴族のトムには判っている。
妻の父ちゃんだから。
でも、鈍くさい家系はトムには、不要。
でないと、トムもまた、老いると、レースに出ないといけなくなる。
血統は、この猫社会で大切にしなくてはならない重要なことだ。
妻も私の子も……そう、トムは思った。
ノラ吉父さん仕方ないけど、今日まででっせ。
ノラ吉は歯を食いしばって走り続けていた。
帰ったら、今日も、おいしいめざし魚が待っている。
ニャーゴ!
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